COLUMNコラム
キリムとは?
キリムとはパイル(毛足)のない平織りの敷物のことで、西アジアから中央アジア一帯の広大な地域を移動しながら生活する人々の生活用具として作られてきたものです。
起源は4000年から5000年と言われ、高級な敷物として有名なペルシャ絨毯より歴史が古いとされています。家畜と共に移動する遊牧民にとって折りたたんで持ち運びができるキリムは生活に欠かせないもの。敷物・食卓・ふとん袋・テント・衣類など様々な形で使われていました。同時に生活に潤いと彩りを添える装飾品でもあり、伝統的な工芸品でもあったのです。遊牧民たちの宝でもある羊から採れる羊毛を使い、女性たちは原毛を紡いで糸にし、染めて織っていきます。母親から娘へ、そして孫へ。何百年、何千年も受け継がれてきた意匠たちのキリムは彼らの財産でもあります。
素材となる糸は羊やヤギ、ラクダなど。羊毛にはない白を出したいときは市場などでコットンを手に入れ混ぜることもあります。キリムは毛足のない平織りの手織りもの。織り方の基本は縦糸に横糸を交互に通して上下に交差させしっかりと詰めていく【平織り(つづれ織り)】の技法です。織り機は単純な水平式のもの。織り手は織り上がった部分に乗っかりながら織り進むので、多少のゆがみがあるのも納得できます。彼らの身近にある自然や動物をモチーフにし、信仰や祈り、願いを込めて織りこんでゆきます。
織り手の指の加減で織り進められるキリムは、横糸の微妙なゆがみ、織り目の不揃いなところが糸の染めムラとあいまって変幻自在な陰影、独特な変化にとんだ表情を作り出しています。無造作で脈絡を欠く色の組み合わせなども、全体を見ると不思議なバランスの良さを感じます。左右の柄が違ったり、糸の色が違うこともよくあること。移動をしながら織り続ける間に、変えなければならない理由があったのだろうと考えることも楽しさのひとつです。
ギャッベとは?
ギャッベ“Gabbeh”とはペルシャ語で『粗い』roughという意味です。イラン南西部のザクロス山脈から南部ファールース州の高原にかけて遊牧生活をしているルリ族、カシュガイ族などの遊牧民によってはるか昔から織り続けられている『毛足の長い絨毯』を指しています。
ふかふかでラフに織られたギャッベは暖かく、山岳地や砂漠など過酷な自然を旅する遊牧民にとって、移動に便利な敷物、夜具、時には寒い夜にロバや鶏など家畜を保護するカバーの役割を果たすものです。まるで子供が描いた絵のようなギャッべの色とデザイン。アート感覚にあふれるユニークなデザインが最大の魅力といえるでしょう。
近年ヨーロッパや日本を中心に人気が高まっており、敷物や壁掛けなどインテリアとしての輸出用の生産が増加しています。
イランには世界的に有名なペルシャ絨毯があります。工房で職人によって織られる絨毯は、ノット数(結び目)が平均およそ1cm四方に90~100という精巧ぶりで、実に豪華で繊細なデザインです。それに対してギャッベのノット数は1cm四方におよそ10。いかにざっくり織られているかがわかります。ギャッベはデザイン、色、質感ともに素朴さ、大らかさがあふれています。
ギャッベのカラーの種類は【ナチュラル】と【カラー】に分けられます。【ナチュラル】は糸を染めずに羊毛の微妙な色の違いだけで文様や味を出したもの。【カラー】は草木染めによる糸を使用したものです。図案などなく、織り手である遊牧民の女性たちが人や動物、花などをモチーフにイメージを膨らませながら即興で織り上げていく為、同じ物がひとつとして存在しません。
デザイン
織り
キリムには縦糸に横糸を交互に通して上下に交差させ、しっかりと詰めていく平織りの技法が使われます。
平織りは横糸で縦糸を覆っているので、表面に見える色や模様は主に横糸です。
継承されていく長い年月のなかで巧みなテクニックが生まれ、繊細で複雑な模様も表現できるようになりました。
そこでよく見られる代表的な織り方をご紹介します。
ジジム織り
平織りや均等平織りの地織りに、異なる色の糸を追加し、縦糸にからませて模様を作ります。追加の横糸は地の横糸より太い糸が使われることが多く、刺繍のように模様が浮き上がって見える効果があります。
平織り(つづれ織り)
基本になる平織りはつづれ織りともよばれています。縦糸に横糸を交互に通して上からぎゅっと押し付けるので、横糸が縦糸を完全に覆い隠しています。表も裏も同じ平らな布のような仕上がりになります。
染色
遊牧民たちは身近にある植物から様々な色を染めあげていきます。
草木染は全体的に化学染料に比べてやわらかく優しい色合いになります。
自然の原料の持つ色には不純物が含まれているので化学染料では表現できない色の深みがつくりだされます。
アブラッシュと呼ばれる色ムラは草木染でしか生み出すことのできない貴重な色のグラデーションです。
赤 | ・・・・ | 茜、コチニール、紅花 | |
青 | ・・・・ | インド藍、ヨーロッパ藍、ナスの皮 | |
黃 | ・・・・ | 玉ねぎ、麦わら、ピスタチオ、サフラン | |
緑 | ・・・・ | ウォルナット、オリーブ | |
茶 | ・・・・ | くるみの皮 |
上記の色を混ぜて紫色などを作る
文様
キリムの文様は身近にある自然や動物などを数多くモチーフにし、直線で幾何学的にデザインされたものが大半です。
もともとが人の手に渡ることを考えてつくられたものではありません。
一点一点が個性豊かでそれぞれの文様を見るとその時の願いをこめて作った織り手の想いが伝わってきます。
文様には隠された意味があり、願い事や夢、希望、繁栄、魔除けなどさまざま。
文様を織り込み、一族の安泰を願ったのだと推測されます。
しかし、長い歴史のなかで伝承されてきたため直線的な織りに合せて抽象化されていることもあり、同じ文様にもさまざまな説があります。
文様の持つ意味は想像の域を出ないとしても、織り手の願いが伝わってくるような個性的な文様はキリムの大きな魅力です。
イランのおもなキリムの産地と部族
※地図上の産地と部族をクリックすると説明が表示されます
A
アフシャール族
アフシャールとは部族の名前でイラン最大のトルコ系遊牧民です。14~15世紀に中央アジアからイラン北部、トルコ東部へと移ってきました。アフシャールキリムは南部ケルマンに住むアフシャール族のものが知られています。ボテ文様や幾何学模様、糸杉や生命の樹などの文様が多く見られます。
B
セネ
セネはイラン西部の代表的な町の名前で、キリムだけでなく絨毯の産地としても有名です。18世紀から20世紀初期にかけてセネで暮らすクルド人によって織られました。繊細な花模様とメダリオン、ボテやミフラーブ文様など直線的な幾何学模様ではなく連続した曲線を織り込んでいる特徴がみられます。
C
ヴェラミン
テヘラン近郊の古い歴史を持つ町。ヴェラミンキリムの織り手は14世紀ごろトルコ東部から移動してきたクルド人です。トルコの影響を受けた幾何学模様や目の模様で知られています。
D
ビシャー
ビシャーとはイラン北西部の町。ビシャー周辺にある40近くの村がビシャーキリムの産地で、織り手はクルド人。粗いウールを使って丈夫に織られており、細長いサイズが多くみられます。
E
シラーズ
シラーズとはイラン南西部の都市でファールス州の州都。ザクロス山脈に位置し、カシュガイ族は16世紀頃北方トルコの侵入により南下してきた民族です。定住化が進む中、今もなお遊牧し伝統を重んじる民族です。動物や鳥、人、樹木などを素朴な形で表した文様と、丸、三角、菱形、カギなどの伝統的な幾何学模様が入る。ギャッベを織る民族としても知られています。
F
シャーサバン族
シャーサバンとは部族の名前で、複数の部族からなるイランで最も強大な部族です。イラン北西部を中心に、南北の細長い地帯に住んでいます。 テヘラン近くのヴェラミンやガズビン周辺で作られるシャーサバン族のキリムは、近郊に住むクルド人の影響を受け、太い糸で粗めの織りが特徴とされています。
G
バクティアリ族
バクティアリとは部族の名前です。イラン中央部を南北に走るザクロス山脈の東のふもとに広がる高原地帯に住んでいます。赤を主にしたデザインで、スリットを作らない重ねつなぎ織りの技法が多く使われているのが特徴です。
H
バルーチ族
バルーチとは部族の名前です。中央アジアの影響を強く受け、赤、茶色のような重厚な色が多く見られます。彼らはすぐれた絨毯の織り手でもあります。その影響からキリムにも様々な織りの技法が用いられています。バルーチ族はアラブ系の遊牧民。イランとアフガニスタンの国境付近の砂漠地帯に住んでいたと言われています。アフガニスタン、トルクメニスタン、パキスタンにも多くのバルーチ族が暮らしています。
I
トルクメン族
イランとアフガニスタンの境に位置するトルクメニスタン。イラン北東部にもトルクメン族が生活をしています。トルクメン族の支族(本家から分かれた血族)ヨムート族のキリムは濃い赤に染められたものが多いのが特徴です。
J
ローリー族
ローリーとは部族の名前です。イラクとの国境に接するルリスタン地方を中心に、いくつかの地方に分散して住む、イランで最も古い遊牧民です。
K
ザランド・シルジャン
イランの南部ケルマン州に位置する町の名前。ザランド産、シルジャン産の古いキリムも多く見られます。
L
グーチャン
イラン北東部に位置する町。
主婦の友社「キリムのある素敵な暮らし」
キリム辞典 監修/竹原伸繭、竹原祥子
お手入れ
日常のお手入れ
基本的にキリムもギャベも素材はウールです。
毛足のない平織りがキリム、毛足のある結び織りがギャベ。
日頃のお手入れ方法は簡単です。
丁寧に掃除機をかける。(ギャベの場合は新しいものは遊び毛が出やすいので丁寧に掃除機をかけることにより遊び毛もとれ艶もでてきます。)
キリムやギャベは湿気を嫌います。乾燥した日を選んでたまには虫干しを。軽くふとんたたき等でたたくと織り目に入ったほこりや細かなゴミが取れます。
いつも同じ向きで敷いていると特定の部分に色褪せや傷みが出る場合があります。長くお使いいただくためにも時には位置を変えることをおすすめします。
なにかこぼしてしまったら
すぐに乾いたタオルなどで広がらないようしっかりと吸い取る。
中性洗剤をぬるま湯に溶かし布に浸してしぼったものでたたき拭きする。
その後よく乾燥させる。
きちんと乾燥させないとカビや色落ちの原因になります。
全体的な汚れ
ちいさなサイズでしたら全体を洗うこともできます。
ただし水を含んだキリムやギャベはとても重くなります。乾かす場所や晴天続きの日を選んで作業しましょう。
作業時間は15分以内がベストです。
お湯ではなく水洗いをしてください。
シャンプーまたはおしゃれ着用洗剤を使い、スポンジに洗剤を含ませ全体を洗います。
水をかけ洗剤を落とし、お好みで手桶1杯くらいの量の水に酢大さじ一杯を溶かしたものかける。(リンス効果があります。)
大きなバスタオル等に巻き脱水します。完全に乾くまで裏表きちんと乾かしましょう。(ギャベの場合は生乾きの時に指やブラシを使って毛足を整えます。)
古いキリム(オールドキリム)や古いギャベ(オールドギャベ)の場合、糸が細かったり糸が弱っている場合があります。
このような場合は状態をみながら洗ってください。
大きなサイズや汚れ・シミのついてしまったものなどは専門のクリーニング業者にご相談ください。(弊社でも専門の業者をご紹介いたします)